温泉とテレビが好きな私の日記

誰かに気を遣うことのない、思った事をそのまま書いてみるところ。

「スカーレット」第48話 あまりのことに打ちのめされた

このところ、遅ればせながらの自分的「やすらぎの刻〜道」ブームで、金曜夜も何本か見ていた。
今見ているのは「やすらぎの郷」パートで、良くも悪くも倉本聡らしい俗っぽさが全開で「年寄り舐めんな!」オーラに満ちている。
さすがだなぁと思って見ていたのだけど、翌朝土曜の「スカーレット」の展開に打ちのめされてなんだか黙り込んでしまった。
どっちが良い悪いではなく、全く違う方向から殴られたみたいだ。
もしかして「スカーレット」は本当に大傑作になるんじゃないだろうか。

絵付けの見習いに入らせてもらって3年、新しい火鉢のデザインに挑戦した喜美子は、照子の夫敏春によってマスコットガールに祭り上げられる。
そんな喜美子を新しく企画開発部に来た陶工の八郎はなぜか苦々しく見ている。
気にする喜美子の横で八郎はフカ先生への思いを語る。

八郎がフカ先生に何かありそうなのは初めて挨拶に来た時の様子でわかる。
だからフカ先生を差し置いて丸熊陶業の顔にさせられた喜美子が面白くないのもわかる。
けれどそれは喜美子が悪いのではないんだよね。
そもそも見てる側としては、喜美子が祭り上げられる事にモヤモヤしている。
喜美子自身は今のところ自分が「女」だという事をあまり意識しないで生きてきている。
あくまでも生物として「女」であるだけで、照子や信作とはどちらとも対等な友人だし、以前の働き先の荒木荘でも「見習い」ではあったけれど、「女」である事でのハンデはなかった。
家では「男」である父親常治が絶対なのだけど、子供が娘だけだったのもあり、常治の絶対さは「男」だからというより「父親」で「家長」だからというのが大きかった。
喜美子は「女」である前に「長子」だったので母親のマツからも、実は常治からも頼られていて、実質の一家の「長」として生きてきていたからだ。
丸熊陶業に来てからも、男ばかりの会社とはいえ、絵付係ではフカ先生も2人の先輩弟子も喜美子のことを「新入り」として扱い、「女」として下に見るような事をしない人達だった。
それがある日突然「女」で「若い」を看板にマスコットガールに祭り上げられた。
食べたこともないホットケーキが好物のキラキラ女子ミッコーに。
今まで大抵のことをそんなもんと受け入れてきた喜美子が初めて嫌だと言ったことがこれだった。
結局は照子の顔を立てて引き受けたが、喜美子にはたくさんのモヤモヤが残った。
貧乏だから女の子らしいオシャレをしたことない喜美子がマスコットガールのために近所の奥さんから洋服を借りて化粧をした姿に涙するマツ。
女の子なのでそもそも働き手として見ていなかった番頭の手のひら返し。
男も女もなく子供の頃から一家を支えてきた喜美子が初めて「女」である事を意識させられた。
敏春は先見の明があり芸術にも明るいから、喜美子のデザインを「ええものであれば採用する」と言って採用してくれた。
が、その結果「信楽初の女性絵付け師」として取材を受け宣伝に使われる。果たしてデザインの採用は喜美子が「若い女」だったことと関係ないのか?
敏春のやり方もわからなくはない。
丸熊陶業の経営は厳しいようだから使える手は使うだろう。けれども、だからといって喜美子が納得できるかというとそれは別。
男社会で「女」が生きるのことの不本意さにうっすら気づき始めたのだ。
朝ドラは「女性の生き方」が基本テーマだけれども、ありがちなパターン通りだったりと、それがちゃんと描けているとは言いがたいものも多かった。働く女性主人公の障害は結婚、出産ばかりになりがちだった。
「スカーレット」はこれまでに見たことない、けれど確かに「ああそうだ」とわかるような、女性の不本意さを描き出している。
事件になるような出来事ではなく、日々のちょっとしたことだけれども何か引っかかる、そんなものを描き出している。
なんだか、凄い。

マスコットガールの件に苛立つ八郎は絵付係を訪ねて自分の思いを語る。
フカ先生の日本画を祖父が手に入れ家に飾られていたこと。祖父の死後も形見と大事にしていたこと。それを自分が11のとき闇市で米と卵3個に替えたこと。丸熊陶業に来る事になって絵付けにフカ先生がいるのを知り運命だと思ったこと。すみませんでした。そして先生の絵のおかげで白いご飯をありがとうございました、と。
そして、それに対して忘れんといてくれてありがとうと答えるフカ先生。
そして横で聞いている喜美子。
………泣いてしまったよ。見返してまた泣いた。
このドラマは戦後から始まっているのに、こんなふうに戦争を描いてみせる。
草間さんの心の傷や、フカ先生の火鉢、そして八郎の米と卵。
八郎はきっと祖父のこともフカ先生の絵も大好きだったんだろう。本当は売りたくなかったろう、けれどどうにもならなかったんだろう。せめて少しでも高く売って、そしてそれで手に入れた白いご飯は本当に美味しかったんだろう。
それがまざまざと浮かぶシーンだった。

そしてその八郎役の松下洸平がびっくりするほど良かった。
凄い男前というのではないけれど、整って落ち着いたルックスで、淡々と喋る大阪弁がいかにも職人ぽい雰囲気が出ていた。東京出身で驚いた。
正直まだそんなに知られてる人では無いと思う。自分も知らなくて検索したら「松下」で1番に上がってきたのできっと「誰?」と調べた人が多かったんだろう。
大阪制作ではこういう抜擢を時々するけれど、今回の八郎役のキャスティングも凄くいい。ぴったりだ。
おそらく将来の喜美子の夫になるんだろう人をこういう選び方するなんて自信がないとできない。製作陣を信頼できる。

そんなふうにシリアス描写がとてもささるのだけど、決して重くなり過ぎないのは日常の様子をテンポよく関西ノリで描いていて、コメディパートとのバランスがいいから。
正に日々笑って泣かされる。
それは脚本、演出、俳優すべてが上手いから。
ふと「毎日3回笑わせる」とかいうコビーをつけて1ミリも笑えなかった「わろてんか」の悪夢を思い出した。
ドラマで笑わせるというのはネタを作るのではなく間なんだなぁと「スカーレット」でよーくわかった。

「スカーレット」は毎朝基本的にリアタイしてるのだけど、どうしてもバタバタするので毎回録画予約をしている。
始まってすぐは見たら消していたのだけど、面白くてつい惜しく、消さなくなった。
放送済みの48話のうち、現在33話が残っている。
ハードディスクの残量が厳しくて見たものは消さなくてはと思いつつもどうにも消せず、ディスクに保存する事にした。
あー、だったらどうして15話分消したんだ。とっておけばよかった。
「スカーレット」はじっくり見れば見るほど面白い。それが朝ドラとして視聴率がパッとしない原因なのもなんかわかる。
けれど、自分はこんなに面白いドラマを毎朝見れるのに感謝してる。
このままのクオリティで最後までいくと信じて見ています。