温泉とテレビが好きな私の日記

誰かに気を遣うことのない、思った事をそのまま書いてみるところ。

「アンナチュラル 」 最終話 そして旅は続く

中堂(井浦新)の恋人夕希子を含む26人の連続殺人の容疑者として浮上した不動産屋の高瀬(尾上寛之)が警察に出頭。しかしあくまでも殺人はしていないという。1件でも殺人を立証しそれを突破口に連続殺人を立件するためにミコト(石原さとみ)たちUDIラボのメンバーの戦いが始まる!

……とあらすじを書いてしまえばシンプルなストーリーだけれど、当然何重にもエピソードを重ねてきて、一瞬たりとも目が離せない最終回だった。あー、面白かったー!でも終わっちゃったー💦でも見返しても面白いー‼︎
あそこがあれでここはこうだって、隅から隅まで喋りたい事があるのに、そのためにはもう事細かくストーリーの説明入れないと伝わらないかも〜!

被害者は勝手に死に、疑われたくなくて死体を隠したと言い張る高瀬。そしておそらくそれを取材の名目で手助けしつつ見続けてきたフリーライターの宍戸(北村有起哉)。「妄想」という程で告白本を出し一躍時の人となる。やり遂げた連続殺人を見せびらかしたくてたまらない高瀬とそれを利用して名を挙げようとする宍戸をどう崩していくか、それぞれがそれぞれの立場で動く。

3話で出てきた烏田検事(吹越満)に、高瀬を追い込むため鑑定書に手を加えるように言われ悩むミコト。一度負けたくらいで人間性変わらないのがこのドラマのリアル。だよね、そんないきなりいい人とかになれないし。中堂を犯人と疑い続けてた事が間違いだとわかっても、中堂の前で気まずそうにするだけ。あー、やな奴なまま(笑)
刑事局長からも検事に協力しなければ補助金を打ち切ると圧力かけられてさらに悩むが、ミコトは例えUDIラボが潰れても高瀬を起訴できなくても嘘の鑑定書は出せないと決意する。
「それでこそミコト!」と思ったら東海林(市川美日子)が言ってくれた。ホントいいコンビ!

その時既にミコトの机から鑑定書は持ち出されていた。正しい方が!
神倉所長(松重豊)が自分の判断で提出、UDIラボは中立公正な組織だと啖呵きって。所長かっこいー!…と思った瞬間、言い過ぎたかととヘコむ所長。かわいすぎる。
つくづくこのドラマは気持ちいい。見てる人間の呼吸をわかっての緩急が絶妙。
そしてさくっと入れてくる仕事人としての正論。自分の代わりにすみませんと謝るミコトに「職員ひとりに押し付けて知らぬ存ぜぬはできません。嘘の鑑定書を一度でも出せば三澄さんは自分を許せなくなります」と言う神倉所長。……理想の上司過ぎる……!!
いいドラマは流れもいい。くしくも森友改ざん問題で大荒れの今、このシーンが放送されるというキセキ。ドラマは去年のうちに収録終わっているのに。

証拠も遺体も無く行き詰るUDIラボチーム。
ついに中堂は壁を越えようとする。宍戸に薬物を打ち命と引き換えに証拠を出せとおどす。そしてそれに気づき止めに向かうミコトと久部(窪田正孝)。
解毒剤を引き換えに証拠を引き渡すふりをして隠蔽する宍戸に対し中堂も策を練っていた。先に打ったのはただの麻酔薬、解毒剤の方こそが毒だった。
駆けつけたミコトは中堂に叫ぶ「戦うなら法医学者として戦ってください」「私が嫌なんです、不条理な事件に巻き込まれた人間が自分の人生手放して、同じように不条理なことをしてしまったら負けなんじゃないですか」「私を絶望させないで」
それを見て、毒物の残りを舐め推測を立てる久部に中堂は中和剤を差し出す。宍戸は助かり、中堂は壁の手前で踏みとどまった。
……このドラマが1話から描きつづけてきたことが収束したシーンだった。

実の母親がしかけた不条理な事件に負けまいと生きてきたミコト。証拠の無さに負けそうだと母親にこぼしていた時もある。それでも嘘の鑑定書は出さなかった。ミコトの不条理は過去として決着をつけたから。不条理に巻き込まれた人間として中堂は以前のミコトだ。そしてミコトの過去は知らなくても中堂もそれは気づいている。だからミコトの言葉がささるのだ。

そして中堂が飲ませたのは1話で出てきたエチレングリコール。それを視聴者と一緒に法医学について学んできた久部が見抜く。当初は週刊誌の内通者として来たとしても、ちゃんと学び身につけて来たのがわかる。久部は久部なりにUDIラボの一員になっていた。
中堂も結局壁を超えられない。「法医学者はヤメだ」と言っても、用意したのは猛毒ではないし中和剤もある。久部がとっさに舐めたのも中堂に信頼があるから。
1話の時はまだ同じ場所にいるだけのメンバーが時間をかけてチームになったんだ。1つのシーンでいくつもの事が伝わるのを自分もチームの一員かのような気持ちで見てしまう。
そうだよ、中堂さん!こんないいチームがあるんだから負けないで〜!

事件の事を知り夕希子の父がアメリカから戻って来た。それによって見つかる突破口。夕希子の遺体はアメリカで土葬にされている。まだ遺体があるのだ。8年間に進んだ技術で証拠が見つかるかもしれない。
この1話からの伏線に感動しかない。火葬の国日本では後日事件とわかっても解剖のしようがない。「アメリカは掘ればいいからいいなぁ」の一言がまさかの最終話へ。隙のない脚本がプロ過ぎる。
そして行き詰まった事件の調査の突破口が他でもない夕希子だという救い。中堂は法医学者としてまだ戦える。
執刀医はミコト。中堂ももう自分がやるとは言わない。ミコトは信頼できるチームだから。ミコトに託す中堂はやっぱり1話からの積み重ねで変わったのだ。

夕希子の遺体から高瀬のDNAが検出され、裁判が行われる。
ここでも3話の裁判シーンとの対比がたまらない。中堂が切り捨てた「カビの生えた件数」ではなく「最新の技術」で見つかった証拠。
「女性は感情的だから」と煽った烏田と組んで、男の高瀬の感情を女のミコトがあ煽る。

そしてコインの表と裏のミコトと高瀬。
このドラマはコイントスの音で始まる。コインの表と裏、簡単に入れ替わるもの。それは生と死の象徴でもあるし、事件を起こす一歩を踏み越えたものと踏み越えなかったものの差でもある。ミコトと中堂でもあった。
そして何よりミコトと高瀬の差なのだ。幼少期、同じように母親の仕掛けた不条理に巻き込まれたミコトと高瀬。それに負けずに来たミコトと、不条理を起こした高瀬。
ドラマの中でミコトは過去の事件のことを誰にも話していない。ミコトの中できちんと決着をつけた過去だから。
そして過去に決着をつけたミコトだから高瀬に「同情します」と言い切れるのだ。

高瀬の自白を引き出し、宍戸も逮捕されUDIラボの仕事は終わった。
中堂は夕希子の父親から「あなたは生きてください」と言われる。夕希子の旅は終わったけれど中堂の旅は続くのだ。
そしてミコトの旅もまだ続く。仕事はまだまだある。またロッカールームでしっかりと食事をし、ミコトは旅を続けるのだ。

このドラマでの食事のシーンはそのまま生きる事の象徴だった。ミコトはいつもよく食べる。そんなミコトが一度だけ食事を切り上げたのが事件に行き詰まった時の母や弟との食事。
一方中堂は食べるシーンがほとんどなかった。
9話の回想、夕希子との出会いやデートのシーンではモリモリと食べているのに。
この先中堂はミコトたちと同じようにたくさん食べて生きていってくれるのだろう。

ラスト、内通が発覚しラボを辞めた久部が新しくバイトとして入り直す。臨床検査技師の坂本も戻り、1話と同じメンバーがそろって1話の冒頭のように出勤ボードに名前を貼っていく。メンバーは同じだけれど関係は変わった。きっとこれからますますたくましく「未来のための仕事」を続けていくのだろう。しっとりしないこのドラマらしい終わり方だった。

とにかくありとあらゆる方向から楽しめた。
各話で1エピソードが決着つくから途中から見ても面白いし、途中の話から見ても充分面白い。その一方で、いろんなこだわりと複線が張られていて何度見返しても新しい発見があってドラマオタクも楽しめる。エンタメとして無敵だ。

キャラクターがすべて魅力的なのもはずせない。
始まる前、せっかくの野木亜紀子初オリジナルなのに特別好きな俳優さんが入ってなくて残念!とか思ってたのに大間違いでした、すみません。
石原さとみ市川実日子は当初「シンゴジコンビ」と言われてたけど、一瞬で忘れられてもう「ミコトと東海林」以外の何者でもない。
ツイッターのつぶやきも「ミコト」「ろくろう」「中堂さん」…もう皆役名で書かれてる。
そしてどのキャラもそれぞれの仕事に真剣なのが気持ちよかった。
やなやつ代表烏田検事もえげつない週刊誌の末次も、自分なりの仕事のプライドがあった。
そして毛利刑事、大倉孝二至上一番男前な役じゃなかろうか。
先週やってた総集編のキャラクター紹介でミコトのことを「同僚と異性の話でもりあがるごく普通の女の子」とナレーションが入ってて、イラッとしたくらいだ。「女の子」じゃねー!「大人の女性」だって。
北村有起哉はあいかわらずうさんくささ全開で、高瀬の尾上寛之はそのあたりさわりのないルックスを存分に生かしてシリアルキラーを演じてた。
謎の葬儀屋木林のようなドラマ的な遊びのあるキャラもいて、どのキャラについても1時間くらい喋れそうだ。
この3カ月、ボンヤリしていてふと「あ、あそこのあれ、こういう意味だったのか!」と思い出してはあれこれ考える日が続いてた。ミコトのこと中堂のこと久部のこと東海林のこと……。
きっと当分は色々思い出して「あー、あれ書き忘れたー!」とジタバタするんだろうな。
こんな終わってもまだまだ楽しめる、コスパいいドラマだなぁ(笑)

もちろん、突っ込みどころが無いわけではなかった。
とくに謎解き部分についてはテンポのよさがあだになって説明が足りないとこもあったけれど、それでも気にならないくらいドラマとしての勢いがあった。
練られた脚本、魅力的な役者、丁寧な演出、きっちりはまった音楽、これだけ重なって面白くないわけがないのだ。
本人もドラマ好きの野木亜紀子が、これでもかとドラマ好きの心を鷲掴みしてくる。
あー、しあわせなドラマ体験だった。
この綺麗な終わり方、続編があってもなくてもどっちでもいい。
自分を含め見た人の中にはUDIラボとそのメンバーは存在してるからいいのだ。
でも、きっとやるなぁ(笑)
最後のシメの言葉、皆さんいろんな解釈をしていて、つくづくこのドラマが愛されてたんだと嬉しくなる。
自分はストレートに「そして旅は続く」と受け取っておきます。

本当に楽しかった。
多分今年のベストドラマになるだろう。
3カ月、クソありがとうございました(笑)