「ラストマイル」を見てからずっとあれこれ考えていたので感想がまとまらない。
なので、ぱらぱらと買いていこうと思います。
基本的になるべく控えるけど、ネタバレはどうしてもあると思います。
「ラストマイル」のメイン舞台は巨大ショッピングサイトの物流センター。
そしてそこと関わる人たち。
センター長のエレナ、チームマネージャーの孔、統括本部長の五十嵐などのエリート正社員と彼らが管理する大勢の派遣の物流スタッフ。
配送を請け負う羊急便、その下請け、孫受けの佐野親子、そしてエンドユーザーの松本親子。
これが刺さるなぁと思うのは、このくくりの中に、少なくとも世の中の大人はほぼ全部入るところ。
業界関係者ではなくてもユーザーですらないという人はいないでしょう。
そして今の物流システムに何か思ったことがある人も多いはず。
自分もそうだった。
ポチッとしたら簡単に次の日、下手すると当日に物が届く。しかも「送料無料」。
楽でいいなーと思いつつ、「本当にいいのか?」という気持ち、拭いきれない罪悪感を形にして突きつけられる。
そう「ラストマイル」の怖いところは、「えー!そうだったの?知らなかった〜」という話ではないところだ。
うっすらとは知っていたけど「まあいいか、自分には関係ない」と思っていたことが目の前に形として現れる。
○マゾンの倉庫で人が倒れても揉み消されるという都市伝説とか、配送料が一件150円とか、配送会社に値下げ強要とか、どこかでなんとなく聞いていたことが、本当にあることなんだとサラッと織り込まれていて、そのたびに胸が疼く。
テレビの情報番組で「ア⚪︎ゾンの賢い活用法❗️」なんてやっていて、「返品が無料でできるので洋服はたくさん注文して着てみて似合わないのは返品するといいですよー」なんて言っていた。
エコと節約をうたうミニマリストが「家に置かなくてもポチッとすればすぐ来るから大丈夫!」と語る。
いやまあ確かにそうなんだけど、それはあなたの楽のために誰かが働いていて、それがエコでも節約でもなくエネルギーと労力を払っていることは頭にあるのか?と思う。
少なくとも日本でいま各家庭に形のあるものを届けるのはドローンでもネコ形配膳ロボでもなく人間なのだけど。
コロナ禍で休む事のできないエッセンシャルワーカーに対して「勉強せずそんな底辺の仕事につくからだ」というような暴言があちこちで見られて、「じゃあ偉そうで稼いでるらしいお前はその人たちにお世話にならずに生きてけてるのか?対価をちゃんと払っているのか?」とモヤモヤした。
数日前、しゃぶしゃぶ温野菜でほぼ脂のイベリコ豚が出されたとXにあげてバズっていて、それをまたコタツ記者がネット記事に上げているのを見た。
ヤフコメでは「こんなもの客に出すものじゃない!」と非難の声が多かったけどそれもモヤモヤした。
だって、3980円とかの食べ放題で一皿ちょっと美味しくなさそうなものが来たからっていちいちネットに晒すのはどうなの?
傷んでいるならともかく、Xの主は「美味しく頂いた」と書いている。食べ放題なんだから微妙だったら残せばいいだけのこと。
たった3980円の食べ放題に「バイトが避けるべき」「店の意識が低い」とか言いたい放題。
なんというか、コストと対価のバランスがおかしくなっているなぁと。
「サービス」というものの値段が果てしなくゼロに近づいていて、それを皆が当然と思いつつある。
そして自分も実はそういうことに慣れてしまっていて、数百円のものをポチッとして送料無料で申し訳ないと思いつつ受け取っている。
そういう自分でもうっすら感じでいた罪悪感を、見終わってからもうずっと感じ続けている。
それだけでも「ラストマイル」の存在意義はあるのだと思う。
一方でユーザーだけでなく、業界内でも自分のところさえよければという印象がある。
時々ビールや水をネットで買う。
うちのマンションは宅配ボックスがあるけれど、そういう大きくて重いものは入れてくれないので在宅しないとならない。
なので、ショップで日にち指定できるときは必ず受け取れるタイミングに指定するけれど、できないショップも結構ある。
なので佐川もヤマトもメンバー登録して事前に連絡がくるようにしている。
郵便局は勝手に連絡が来る。
なのに、佐川はちょくちょく事前連絡が無いことがある。
お荷物番号で配送ルートを追っても、そこから日時指定ができずに結局不在通知を一旦受け取るしかない。
これ以上こちらにどうしろというのかイラっとする。
先日もビールと水がこのパターンで再配達で、宅配ボックスに入るような化粧品に限って前日にお届け案内がきて、ますますイラっとする。
こんなもの、システムでどうにかできるはずなのに佐川はそこをケチっているのかと思う。
再配達で削られるのは佐野配送みたいな孫受けだからどうでもいいと思っているのかと、毎回イラっとする。
そして配送業者の指定もできずにモヤモヤし続ける。
今、物流業界は「2024年問題」と言われているけれど、野木さんが話しているように映画の企画は2020年頃から動いていた。
なのに今、こんなにタイムリーに映画が上映されているのは、やはり野木さんの視点の確かさなんだろうと思う。
物流業界を舞台にというアイデアは塚原監督が出したそうだけど、そこから取材して広げていって先々に繋がるテーマに繋げていくのは野木さんならではで。
コロナ禍で「アンナチュラル」の1話が話題になった時も、WOWOWで「フェンス」が放送された時ちょうど横田基地から漏れたと疑われる PFAS汚染水のことがニュースになっていた。
野木さんのその感覚の鋭さにいつも、感動しつつも投げかけられた問題に「あなたはどう考えるのか?」と言われているようでずっと考える。
野木さんの脚本はエンタメとしての爽快感と共にある、このざらつきが引っかかって見ないではいられないなといつも思う。