今シーズンはゴールデンのドラマがそこまでハマらず、深夜ドラマに良作がいくつも。
まあ、最近はそういう傾向が強いかな。ゴールデンは明らかに制約に縛られてる感があったりするし。
そんな中、深夜ドラマながら豪華な出演者と脚本 野木亜紀子、監督 山下敦弘という布陣で期待度ナンバーワンだった「コタキ兄弟と四苦八苦」、期待通りハズレなく40分12話を楽しんで完走しました。
生真面目で生きるのが下手な元予備校講師の兄・一路(いちろう)の楽しみは行きつけの喫茶店「シャバダバ」の看板娘さっちゃんとの交流。お話出来たとか、いちいち日記につけていてちょっとキモい💧
そこに妻から離婚を突きつけられたお調子者で専業主夫の弟・二路(じろう)が転がり込んでくる。
たまたまレンタルおやじのムラタを助けたことで無職のおやじ2人がレンタル兄弟おやじとして働き始め、様々な人に出会う。
毎回いかにも深夜ドラマらしい、地味といえば地味なエピソードなのに見終わったあとの満足感がめちゃ高い。
俳優も皆上手い上に、意外な豪華ゲスト登場でわくわくする。
基本1話完結できちんとエピソードがまとまっているのに、1話からあちこちに散りばめられた伏線が、回が進むごとに回収され、「え?そうだったのかー!」「こうくるか!」と驚かされるのが心地いい。
野木亜紀子の構成の上手さをこれでもかと堪能できて、連ドラとして素晴らしい。
さらに、ガッツリネタバレ有りで感想。
結構ネタバレすると思うので、これから見てみようかなという人は読まない方が絶対新鮮に驚けます!
多分4月からBS放送が始まるし、配信もあるので見るチャンスはたくさんありますから。
メインキャストの古瀧兄弟とさっちゃんについて最初は情報があまり無く、ドラマが進むにつれだんだんと背景が描かれる。
毎回のゲストの人生に少し触れることで、それぞれの人生のこともちょっと振り返るという基本構成が続く中、8話の展開が意外で驚く。
朝起きると兄弟の中身が入れ替わっている。それをなぜか羨むさっちゃんも入れ替わってしまうという、「君の名は」パロで一見遊びエピソード。
それぞれのキャラを演じ分ける俳優がさすがに上手いなぁと感心していると、それはまさかのさっちゃんの夢オチだった。
「どーした!野木亜紀子⁉︎」と驚くが、その後の展開にさらに驚く。
こんな夢を見たのはさっちゃんが「男の人はいいなぁ」と思っていたから。
高齢のシャバダバ店主を騙して増えるワカメを高額で売りつけにくる三河屋の男に腹を立てていて、自分が男ならそんな舐めた真似をされないだろうと悔しく思っていた。
でも、本当に男だったらと思ってしまった理由は、同性の恋人と、同性同士だったために別れなければならなかったから。そして、やっぱり自分は女なんだということに改めて思う。
さっちゃんの大きな背景をサラッと出す。この加減が絶妙でなんだか納得してしまった。
昨今LGBTを扱うドラマは多いけど、ここまで自然に描いてるのは中々ない。マイノリティだからと特別ドラマティックに描くのではなく、普通にそこにいて、でもマイノリティであることでやっぱりあるちょっとした哀しみとかをサラッと描く。
「アンナチュラル」のときも思ったのだけど、野木亜紀子のマイノリティの描き方が普通でいい。距離の取り方がちょうどいい。キチンと理解して描いていて、寄りすぎてもいない。
元々どちらかというと女性の作り手の方がこういうスタンスを取れている印象なのは、女性は社会に出て働くだけでマイノリティとして扱われるからなのかもなと思ってる。
話はズレるが、今の国のトップあたりは金持ちの家で生まれて勉強もせず、金が有れば卒業出来る大学を出て身内の会社で最初からチヤホヤされてマッチョ思想の中心で生きてきてるんだから、そりゃマイノリティの気持ちなんかわからんだろうよと思うもの。想像力も無いバカだし。
野木亜紀子のマイノリティに対するスタンスはいつも程よい距離感なのにちゃんと見てくれてる感がとても暖かい。
結局は男社会のテレビ業界で働いてきて、きっとたくさんのものを見てきてそれが血肉になって、そこに豊かな想像力が加わったらこんな脚本家が生まれたんだろうか。
脚本家デビューは決して早くないけど、野木亜紀子の作品を見てると人生無駄なことはないんだなと思う。
そうしてさっちゃんの背景が8話で明かされ、9話では一路の秘密が明かされる。
探し物をしていて二路が見つけたのは隠してあったさっちゃんの写真。それもシャバダバに勤める前の勤務先の物。
視聴者も二路とともに「兄ちゃんヤバイよ💧」と引いてしまう。典型的な交際下手の中年男性が若い女の子に執着するとか、怖い展開しか想像できない。そもそもさっちゃんは同性愛者なので望みはないし、どうしたものか…。
とモヤモヤしていると9話の終わりで二路も知らなかった事実を一路が告げる。
行方不明の兄弟の父親、実は施設に入っている。そして、さっちゃんは親父と愛人との間に生まれた自分達の妹だと。
あー、兄のさっちゃんに対する態度はそういうことだったのかー!言われてみれば納得!謎が解けたー。そしてクズ親父役も出てくるのね?誰かしら〜ワクワク……と思って見てると予告に映るのは小林薫!お前か〜‼︎そうきたか!
もうこの辺りの畳み掛け方が秀逸ですよ。
ここから最終回までは、兄弟がさっちゃんとの距離をどう取っていくのかが描かれ、とてもこの兄弟らしい展開にふふっとなった。
さっちゃんが同性愛者という事を、「娘がいるから勉強した」上に元々柔軟なので理解する二路に対し、昔ながらの中年男なので理解できない一路。男性と結婚する人もいるという説明に、本気で安堵して「良かったー」と言ってさっちゃんを怒らせる。
ここは切なかったなぁ。
「きのう何食べた?」のシロさんのご両親を思い出してしまった。
自分の理解の外にあるものが本当にわからない。そして悪意が無いからこそ無理解をサクッと出して相手を傷つける。
そうだよね、こういうことあるなぁと思った。
それでも救いがあるのが野木脚本。
さっちゃんを傷つけた事に深く反省して落ち込み、1週間かけて勉強する一路。
このドラマのキャラクターはみんな欠点だらけだけど善人で愛おしい。いいよねぇ。
そうしてさっちゃんとの交流はまた続くのだ。
そして最後のオチが!
二路が一路に「気がついちゃったんだけど!」と笑いながら告げる。
父親の名は零士、長男 一路、次男 二路。そしてさっちゃんは「五月(さつき)」
ってことは、三、四もいるんじゃね?
そして頭を抱える一路。
もうね、腹抱えて笑いました。やられたー!
ずっと「さっちゃん」だったので、「なるほどー、兄弟が一、二、で父親が零だもん、三番目で『さっちゃん』なのかー」と思ってた。
明石家さんま(元)一家みたいな。
「さつき」というのもドラマなので漢字が出たのは後だったし。
でも何となく「ん?なんか変?」と思ってたら、ちゃーんと落としてくれました。
野木亜紀子のこういうとこ、本当好きだわ〜。
と、とにかく話の展開の素晴らしさに大満足のドラマでしたが、あとはとにかくゲスト出演者に至るまで全ての俳優さんが上手い。
一見地味なドラマだからこそ上手くないと成り立たないのねーと改めて実感。
兄弟二人はもちろんなんだけど、今回は芳根京子も良かった〜!
というか、初めてちゃんとした使い所を見つけた気がするわ。
同世代の中でも芝居は上手い人だと思うけど、この何となくの地味さや若くて童顔ゆえの役柄の狭さになんかしっくりこない感がずっとあった。
「べっぴんさん」では後半の中年時期が、ちゃんと芝居してるのはわかるけど、20歳の若さと童顔がどうにも気になり、「小さな巨人」「TWO WEEKS」での仕事をする女性もなんか合わず、好評だった「チャンネルはそのまま!」は原作好きすぎてイメージ合わず自分的に無かった。
「チャンネルはそのまま!」の雪丸は上野樹里のバカキャラの大きい動物みたいなイメージだったんだよねー。
そう、芳根京子って意外と等身大の普通女子の役で見たことなかったんだけど、そういう役がハマる人なんだなぁと思った。
うんうん、よかったわー。
俳優宮藤官九郎も見れたし、深夜でさほど話題にはならなかったけど、たくさんの人に見て欲しい良作でしたわー。
これなら「MIU404」も心配ないわーと期待してるんで、早く放送予定が経って欲しい。
野木亜紀子脚本にハズレ無し伝説は続きますね。